ドイツの水は飲めるのか
結論から言うと、ドイツの水道水は飲むことができます。しかし、日本の水道水が軟水(weiches Wasser)であるのに対して、ドイツを含めたヨーロッパの水道水は 「硬水」(hartes Wasser)が使われています。日本の軟水に慣れている場合、初めてドイツの硬水を口にした時は、違和感を覚える人も少なくありません。口当たりがトロっとしていたり、喉越しが重く感じたり、人により感じ方は様々ですが、日本の軟水とは異なる味を感じることでしょう。しかし現在のところ、硬水を飲むことによる健康への影響は国際的にも報告されていません。
ドイツの硬水【なぜ・どれくらい硬いのか】
水の硬度を決定づける基準は、水に含まれるカルシウムとマグネシウムの量です。世界保健機関 WHOの基準によれば、120mg/L 以上の含有量で硬水と定義づけられています(WHO 2010年発表 Hardness in Drinking-Water(飲料水の硬度)より)。ドイツでは独自の基準を設けていて、「°dh」という単位で硬度を表しています。8.4°dh未満は軟水、8.4~14°dhまでが中硬水、14°dh以上で硬水と、主に3段階で示されます(ハンブルク市HP – Housing Water Quality より)。硬水と断定される14°dh をWHOの単位に置き換えると、250mg/L以上のものミネラルを含んでいることになり 「非常な硬水」となります。ドイツ国内においても、水源に左右されるため地域差がありますが、多くが硬水地域になります。例えば、ミュンヘンが位置するドイツ南部やフランクフルトがある中部は約12~30°dh、首都ベルリンがある北部は約8~18°dhです(BGR(連邦地球科学天然資源研究所)– Geogenic groundwater quality – water hardness(ドイツの地下水の水質 水の硬度マップ)より)。なぜ、これほど高い硬度になるかというと、欧州にはもともと石灰質の土壌が広がっており、そこを水が流れていく過程で、ミネラルが溶け込んでいると考えられているからです。
ドイツで軟水を手に入れるには【ミネラルウォーターかフィルターのどちらか】
硬水を飲むことによる健康への影響はありません。逆にミネラルが補給できるというメリットがありますが、それでも軟水を好む方も多いでしょう。そこで、ドイツで軟水を手に入れる方法をいくつかご紹介します。最も手軽なのは、スーパーなどでミネラルウォーターを購入する方法です。一般的に、日本でもお馴染みの Volvic や、コカ・コーラから販売されている Vio が、日本の軟水に近いと言えるでしょう。
また、ドイツ発祥 BRITA などのポット型浄水器(Wasserfilter)を利用する方法もあります。水道水を専用のフィルターでろ過することで水の硬度を若干和らげてくれます(専門家によれば、フィルターの効果は硬度を下げることよりは、バクテリアやマイクロプラスチック、塩素を除去することにこそあるとも言われます)。使用量により、4週間に1度の交換が必要とのことですが(BRITA – カートリッジの交換のタイミング より)、ミネラルウォーターを頻繁に購入するよりも経済的かもしれません。
さらに、本格的に浄水器を設置する方法もあります。デュッセルドルフ近郊の Meerbusch に本社を置く GH TRADING GmbH は、これまで日本料理店を中心に、法人向けに浄水器の販売を行っていましたが、2020年より、業務用だけでなく一般家庭向けにもレンタルサービスを開始したそうです。水道水を極限まで浄化し、超硬水と言われるドイツの水道水を超軟水に変える AQUA DIANA という製品を導入しています(GH TRADING GmbH HP – 事業について より)。ご興味のある方は、設置を検討してみてはいかがでしょうか。
ドイツのミネラルウォーター【軟水や炭酸(ガス)なし水の求め方】
先述の Volvic や Vio を含め、ドイツでは様々なミネラルウォーターが販売されています。それぞれの特徴をご紹介します。
- Volvic(ボルヴィック): フランス産ミネラルウォーター。カルシウム含有量が12mg/L、マグネシウムが8mg/Lで、硬度が約60mg/Lの軟水。約5年をかけて火山性の地層を通って湧き出るという特殊な環境下で作られる天然水。乳幼児にも飲ませることができる。
- Vio(ヴィオ): コカ・コーラが販売するミネラルウォーター。ドイツ北部リューネブルガーハイデが源泉地。ミネラル分が低く、Volvicと同じく日本の軟水に近い。
- Evian(エビアン): 日本でも、伊藤園から販売されているフランス産ミネラルウォーター。カルシウム80mg/L、マグネシウム26mg/Lで、硬度が約300mg/Lの硬水。
- Vittel(ヴィッテル): フランス産ミネラルウォーター。カルシウムが240mg/L、マグネシウムが42mg/Lで、硬度が約770mg/Lの超硬水。
- Vöslauer(ヴェスラウアー): オーストリア産ミネラルウォーター。水源地のBad Vöslauは、その豊富なミネラル分を活かした温泉施設も有名。硬度450mg/L以上の超硬水。
- Gerolsteiner(ゲロルシュタイナー): ドイツ産のミネラルウォーター。カルシウム125mg/L、マグネシウム44mg/Lで、硬度が490mg/L以上の超硬水。
ドイツでは炭酸入りミネラルウォーターが主流のため、売り場では目立つところに置いてあることがあります。また、ひと目見ただけでは判別しづらい場合もあるため、炭酸なしのものを買おうとして、誤って炭酸入りを買ってしまったという方もいるかもしれません。炭酸なしを購入する場合は「Mineralwasser ohne Kohlensäure」 あるいは 「Still」という言葉を探してみてください。逆に、炭酸入りの場合は、「Mineralwasser mit Kohlensäure」や「Sprudel」、「Klassisch」と書いてあります。ちなみに 「Medium」 は微炭酸のことです。
「水よりビールが安い」は本当か
ドイツについて語られることの中に、「ドイツでは水よりビールの方が安い」という表現があります。これは本当なのでしょうか。まずこのように言われる理由の一つは、ビールに対する酒税の低さでしょう。日本では酒税改正が行われている最中ですが、2023年3月現在、ビール350mlあたりの酒税額は70円です(2023年10月以降は63.35円 (財務省 – 酒税に関する資料 より))。一方 ドイツでは、2022年7月時点で、330mlあたり0.03€の税率がかけられており、日本円でおよそ4円です(Tax Foundation – Beer Taxes in Europe (2022) より)。ドイツでのビールに対する税率の低さは歴然でしょう。
実際のところ、ビールの方が安いかどうかというのは、レストランやスーパーの価格設定による場合も多く、一概にビールの方が安いと言い切れるものではありません。また、スーパーが独自のブランドを展開していることも多く、ミネラルウォーターだけでも、そのブランドの飲料水とメーカー品とでは価格差があります。ご興味のある方は、お買い物の際に比べてみてはいかがでしょうか。
関連リンク
WHO – Hardness in Drinking-Water (2010)
ハンブルグ市ホームページ – Housing Water Quality
BGR – Geogenic groundwater quality – water hardness
GH TRADING GmbH ホームページ – 事業について